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崩さない、その余裕 3

작가: 花室 芽苳
last update 최신 업데이트: 2025-09-24 20:39:50

「ああ、ここにも写ってるね。あのストーカー」

 取り返そうとしたアルバムを目の前に出され、その一点を指でさして教えてくれた。そこには間違いなく、あの時のストーカーの姿がはっきりと写されている。

 けれども、これは数か月前の社員旅行の時に撮ったもので……

「そんな、どうしてこんな所にまで……?」

 こうして梨ヶ瀬《なしがせ》さんに言われるまで全く気付かずにいたけれど、私はそんなに前からこの人に付きまとわれていたの?

 やっと自分の置かれている状況に気付いて、一気に体が冷たくなるような気がした。

「ごめんね、勝手に見ちゃって。もしかしたらあのストーカーの情報が得られるかなと思ったけど、これはちょっとね……」

「そう、ですね」

 さっきまでの怒りもすっかり萎んでしまい、私は自分の両腕をさすってその震えを誤魔化した。正直いまの自分が、梨ヶ瀬さんにいつも通りの返事が出来ているのかも分からない。

 こんなに前から、こうやって誰かに付きまとわれていたなんて。本当に……今まで無事でいれて運が良かったのかもしれない。

「……これは、いま君に教えるべきじゃなかったね。その荷物、残ってる分は俺がやろうか?」

「いえ、大丈夫です。すみません、すぐに終わらせますから」

 残っていた荷物をボストンバックに詰め込み終えると、私は立ち上がりそれを玄関へと運ぼうとする。けれどバッグはあっさりと梨ヶ瀬さんに奪われ、その代わりに彼の通勤鞄をポンと渡された。

 先に玄関に置いていたスーツケースも彼が片手で持つと、そのまま玄関を開けてこちらを振り返る。

「この荷物は俺が持って降りるから、横井《よこい》さんはきちんと部屋の戸締りをしてからおいで?」

「でも、そんな重いもの二つも……って、あの人は私の話を全然聞いてくれないし」

 自分の言う事だけ言って、さっさと部屋を出て行ってしまった梨ヶ瀬さん。それが彼の優しさだとは分かっているけれど、どうしても素直に甘える気にはなれなくて。

 彼との相性が悪いような気がするし、何となく気が合わないとか……いろいろ理由はあるけれど、私はあのわざと話をずらしているような狡猾なところが一番苦手。

 上手く梨ヶ瀬さんの手のひらで泳がされてる気がして、どうしても彼との距離を置きたくなるの。それなのに、あの人はそれをガン無視してどんどん私に近付こうとしてくるのだけど。

 ……これから
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